反革命の経済的攻勢と労働組合

(反ファシズム大会における国際左翼反対派所属代議員の声明)
トロツキー/訳 水谷驍・西島栄

【解説】これは、1933年6月にパリで開催された反ファシズム大会(スターリニストが主導)に向けた労働組合関係の声明である。反ファシズム大会全体に関する声明は、「反ファシズム大会への声明」を参照のこと。

 本稿の初訳は『トロツキー著作集 1932-33』上(柘植書房)だが、今回アップするにあたって、『反対派ブレティン』第34号所収のロシア語原文に沿って点検・修正をほどこしている。

Л.Троцкий, Экономическое наступление контр-революции и профсоюзы, Бюллетень Оппозиции, No.34, Май 1933.

Translated by the Trotsky Institute of Japan


 現代史のすべては、自己の階級組織を持たなければプロレタリアートは無に等しいという事実を証明している。それと同時に、経験は、労働者組織がしばしば革命闘争のブレーキになることをも示している。プロレタリアートの運動はこの矛盾のせいで一度ならず破産をしてきた。その最も悲劇的な例がドイツの破局であり、そこでは、指導的な労働者組織がそれぞれのやり方で、上からプロレタリアートを麻痺させ、プロレタリアートを武装解除し、彼らをファシズムに譲り渡したのである。

 共産党はプロレタリアートを権力に導くことをその任務としている。党がその革命的使命を遂行することができるのは、プロレタリアートの多数を獲得することによってのみ、したがってその大衆組織、とりわけ労働組合を獲得することによってのみである。

 それゆえ、労働組合の内部で影響力を獲得するための共産党の闘争は、大衆組織の当面する課題を妨げたり、組織を分裂させたり、あるいは共産党が階級的運動を解体しているかのような印象を労働者の中に生み出したりしないようなやり方で進めなければならない。闘争のこの種の原則は、すでに『共産党宣言』の中に書かれており、その後の労働者運動の理論と実践によって発展させられ、ボリシェヴィキの活動の中にその最高の表現を見い出した。

 党とは階級の精華であり、その革命的選抜部隊である。他方、労働組合は、さまざまな水準にある広範な労働者大衆を包含する。これら大衆が広範であればあるほど、労働組合はそれだけその課題の実現に近づくことになる。だが労働組合は、その広がりの中で得たものを不可避的にその深さという点で失うことになる。労働組合ならびにその指導部内の日和見主義的、民族主義的、宗教的諸傾向の存在は、労働組合が前衛のみならず鈍重な予備軍をも包含しているという事実を表現している。したがって、労働組合の短所はその長所から生み出されるのである。組合組織内の日和見主義に反対する闘争は、基本的に、この予備軍を前衛の周囲に結集させるために執拗かつ粘り強く活動することを意味する。

 労働組合から革命的労働者を切り雄す人々、大衆組織と並んで革命的で「純粋な」――レーニンの皮肉な用語を使えば――、だがちっぽけで、したがって無力な労働組合を建設する人々は、この歴史的課題を解決するどころか、その解決を放棄する者である。なお悪いことに、これらの人々は労働者階級に影響力を及ぼそうとする闘争に直接的な障害物をつくり出す。

 この大会の発起人は、ドイツ、ポーランド、イタリアの赤色労働組合反対派(RGO)の諸組織である。これらの組織の歴史は、労働組合分野におけるマルクス主義政策の根本的諸原則を致命的な形で破壊してきた歴史である。RGOは、ただ別の名前を戴いただけの共産党、もしくはその一部にすぎない。これらの組織は党を労働組合に結びつけるのではなく、反対に党を労働組合から切り離している。RGOはその数が少ないために、絶対に大衆行動の分野で労働組合に取って代わることができないし、同時にまた、競合組織として他の労働組合に敵対しているため、外部から労働組合に影響力を与えることもできない。

 社会ファシズム論を正当化したのと同じく、RGOの政策を正当化するために、スターリスト官僚は現在、ドイツの労働組合の指導部が、過去においてホーヘンツォレルン家の従僕であったのと同様に、現在はヒトラーの従僕になろうとしているという事実を引き合いに出している。フランスのスターリニストは、ライパルト(1)一派の卑劣な役割を指摘することによって、フランスにおける2つの労働組合組織の合同に反対の立場を表明している。彼らはただ一つの条件があれば統一を受け入れることに同意するとしている。すなわち、統一された労働組合の指導部に、裏切り者ではなく、革命的闘士が立つことである。

 このことによって、スターリニストは、フランスのブルボン家と同様に、「何も忘れなかったし何も学ばなかった」ことをまたしても証明する。彼らは、革命的指導部を戴いた大衆組織をすでに出来上がった形で自分たちに与えられることを要求している。そのような組合なら、彼らは喜んで参加することに同意する。言いかえれば彼らは、自分自身の活動の基本的内容を構成すべき歴史的課題を誰か他の人々が解決してくれるのを待っているのである。

 ドイツ労働組合の指導者連中は、アメリカおよびイギリスの労働組合やフランスの改良主義的労働組合の指導者と同様に、「世界中で最大の悪党である」――ずっと以前にローザ・ルクセンブルクはこう述べた。コミンテルン創設のさいの最も重要な任務は、大衆的労働組合からこれら悪党を追放することであった。だが、まさにこの任務を遂行する点で、スターリニスト官僚は自らの完全な破産を暴露した。

 RGOがドイツにおいてヒトラーの側に寝返らなかったことは、純粋に消極的な功績であって、そもそもこの功績を革命的隊列の中でひけらかすことは許されない。だが、RGOの無力さとドイツ共産党の無力さ、さらにはスターリン主義的コミンテルンの無力さは、ライパルト一派のような悪党が今なお大衆的労働組合のボスにとどまり続けているということのうちにある。RGOについて言えば、それは、大事件が起こる前からカルタの家でしかなかった。

 共産主義者の活動舞台は大衆的労働組合の内部にある。共産主義者は、その国の政治上ならびに警察上の諸条件に応じて、その旗を掲げるか巻いたまま大衆的労働組合に入り、そこで、公然ないし非公然の運動を行なわなければならない。いずれにせよ、彼らがなすべきは活動することであって、腕組みをすることではない。

 労働組合運動への自らの参加に関して、共産主義者は一般に、労働者階級全体に対しても、改良主義官僚に対しても、いかなる条件もつけることはできない。もし労働者階級があらかじめ共産党の政策の優位性を理解しているとすれば、彼らは自分たちの組織の指導部に改良主義的裏切り者がいることを許しはしないだろう。改良主義的官僚に関して言えば、彼らは共産主義者を組合の外にとどまっていることを意識的に望んでおり、したがって共産主義者の活動を容易にするようないかなる条件をも拒否する。プロレタリア革命家というものは、組合からの逃亡を正当化する役にしか立たない尊大だが愚劣な最後通牒を行なうのではなく、あらゆる妨害と障害を踏み越えて組合に浸透していく。共産主義者は労働組合官僚の手を通して自らの活動にとって有利な条件を獲得するのではなく、労働組合内部で影響力を獲得する度合に応じて少しずつそれを獲得していくのである。

 この大会は、資本とファシズムの攻勢に対する抵抗を準備する使命を帯びているが、この大会の主要な組織者は、その基本原則においてそもそもセクト主義的である3ヶ国のRGO組織である。こうした事情ゆえにわれわれは、倍する力をもって、スターリニスト官僚の致命的な方法に反対する闘争にすべての真の共産主義者が立ち上がるよう呼びかけざるをえない。この方法は、プロレタリアートの前衛を孤立させ、彼らが勝利の道を歩むのを妨げている。

 共産党の同志諸君、自覚的な労働者諸君! コミンテルンの最初の4つの大会で定式化された労働組合政策のマルクス主義的原則を復活させよう。諸君の足からスターリニズムの汚れを拭い落とせ。マルクスとレーニンの道に戻れ。この道だけが前進を可能にする!

1933年3月30日

『反対派ブレティン』第34号

『トロツキー著作集 1932-33』上(柘植書房)より

  訳注

(1)ライパルト、テオドール(1867-1947)……ドイツの労働組合指導者で、社会民主党主導の「自由労働組合」の組織者。後にドイツ労働総連合(ADGB)の議長。第2次世界大戦後、東ドイツでスターリニスト党と社会民主党の合体を主張。


  

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