コミンテルン執行委員会9月総会

いくつかの簡単な観察
トロツキー/訳 水谷驍・西島栄

【解説】これは、1932年9月に行なわれたコミンテルン第12回執行委員会総会についての簡単なコメントである。その主な批判点は引き続き、コミンテルンの「第三期」論的立場である。

 なお本稿は、英語版から水谷氏が最初に訳し、その訳文を西島が『反対派ブレティン』のロシア語原文で入念にチェックして修正を施したものである。

Л.Троцкий, Сентябрьский пленум ИККИ, Бюллетень Оппозиции, No.32, Декабрь 1932.

Translated by the Trotsky Institute of Japan


 1、革命的戦略に関する報告がクーシネンによって読み上げられた。1918年のフィンランド革命における彼の役割は、彼が国際プロレタリアートの戦略家としてうってつけの人物であることを示している。

 2、基本テーゼは何度となくこう宣言している。「資本主義の相対的安定は終わった」。1932年に? だが第6回世界大会[1928年]がすでに安定の終焉を語っていなかったか。コミンテルン第10回執行委員会総会[1929年]は「第三期」を、つまりプロレタリア蜂起に直接移行する時期の到来を宣言した。いまわれわれは、何の説明もなしに、資本主義の安定が再び終わったと告げられる。これは何回目のことだろうか。

 3、中国についてはこう語られている。「ソヴィエト革命が国土の大部分で勝利した」。革命は、ブルジョア的かプロレタリア的かのいずれかである。中国の場合、このどちらと理解すべきなのか。コミンテルンはなぜ、ソヴィエトという形態によって革命の階級的内容を隠すのか。

 4、「新しい世界帝国主義戦争が差し迫った危険となっている」。第6回世界大会がすでに戦争の危険が差し迫っていると宣言した。執行委員会は4年後に同じ定式を繰り返している。いずれにせよ、戦争の現実性は現在のほうが1928年よりも大きくなっている。しかし、コミンテルンの言葉では、「差し迫る」という語は正確に何を意味するのか。

 5、共産主義の諸党は「社会民主主義の抽象的、偽善的な平和主義の宣言に戦争準備反対の実際の闘争を対置する」ことを義務づけられている。これは正しい。だがその場合、社会民主主義に劣らず抽象的で偽善的なアムステルダム大会の宣言はどうなのか。驚くべきことに、この決議はアムステルダムでの仮面舞踏会については一言も触れていない。自分の子供をすでに恥ずかしく思っているのだろうか。

 6、テーゼはまたしてもさまざまな形態のファシズムに学問的な定義を与えている。「社会ファシストはブルジョア的暴力の穏やかで『合法的』な適用を好む……。彼らは民主主義の外観を防衛し、その議会主義の形態を可能なかぎり維持しようとする」。今やすべての謎が解けた。正方形とは4辺が直交する3角形である。

 7、フランスについて彼らは、共産党と革命的労働運動は弱体化してしまったが、その代わり強力な革命的反戦運動が発展している、と言う。しかし、反戦運動は、プロレタリア前衛が弱体化してしまえば、必然的に小ブルジョア的運動となり、改良主義的平和主義を利するように変わってしまう。

 8、ドイツ共産党は、「プロレタリア国際主義のための反民族主義、反排外主義」の闘争を強化するよう勧告されている。これは正しい。だが、「民族解放」の綱領はどうするのか。

 9、ポーランド共産党に与えられた任務は、「大衆に対するポーランド社会党の影響力を粉砕すること」、そして「大工場や鉄道労働者、軍隊におけるその弱さを克服すること」である。これ以上に単純な助言はない――敵を粉砕し、全能になれ。クーシネンはただ、どうやってそれを実行するのかを示すのを忘れている。

 10、スペインに対する勧告は、「ソヴィエト形態のもとにあるプロレタリアートと農民の独裁」に向けて努力することだ。この体制がプロレタリアートの独裁とどう違うかについては、いつものように説明はない。

 11、イギリスについては、統一戦線の実現が勧告されている。もっとも、他のすべての国と同様、下からの統一戦線だけに限定されている。言いかえれば、コミンテルン執行委員会総会はふたたび統一戦線政策の放棄を承認している。

 12、満州については、ゲリラ戦を基礎として「選挙で選ばれた人民政府」の樹立が提案されている。民主的なスローガン? なぜこんなにあいまいに表現されるのか。なぜ満州だけなのか。なぜ全中国に適用されないのか。

 13、インド共産党は、「国民会議派の影響から大衆を解放する」任務が割り当てられている。その一方でコミンテルン執行委員会は、アムステルダム大会をつうじてパテールと連帯し、国民会議派の権威を人為的に高めている。

 14、組織問題では執行委員会総会は、「過度の中央主権主義、純然たる命令のシステムを断固として一掃すること」等々を勧告している。このような勧告をコミンテルン執行委員会の口から聞くのは悪くない。何しろ5年にわたって国際大会を招集せず、インターナショナルの名をかたって命令しているのだから。

 15、国際執行委員会は、共産主義青年同盟が真の大衆組織になるべきであると主張する(!)」。立派な助言だ! だがこの青年組織は、クーシネンのあらゆる助言にもかかわらず、なぜ無為にすごし、衰退しつつあるのか。ほかならぬ彼の助言から解き放たれていないからだ。

 16、 最後に国際執行委員会のテーゼは、「スターリン書簡」にもとづいて教義の純粋性を守るために闘うことをすべての党に勧告している。かわいそうな純粋性、かわいそうな教義、かわいそうなコミンテルン!

 17、ソヴィエトについては、テーゼでは、中国とスペインに関連してついでに触れられているにすぎない。他の国に関しては、革命的展望が設定されているにもかかわらず、一般にソヴィエトに対する言及はない。とくに、ドイツのプロレタリアートにはソヴィエトのスローガンは提起されていない。その理由を知ることは難しくない。ドイツでは、先進国ではほとんどそうなのだが、真のプロレタリア的ソヴィエトは広範かつ大胆な統一戦線政策を基礎にしてのみ樹立が可能だからである。ソヴィエトのスローガンは最後通牒主義とはあいいれない。統一戦線の政策を拒否することによって、スターリン主義者はソヴィエトを拒否しているのである。

1932年10月13日

『反対派ブレティン』第31号

『トロツキー著作集 1932』下(柘植書房新社)より


  

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