【解説】１９１０年１月に開催された中央委員会総会（パリ総会）は、党の統一に向けた重要な諸決議を採択した。とりわけ、その中の「戦術決議」は、党の統一を妨げていた極左的潮流（召還主義、最後通牒主義）と右翼的潮流（解党主義）とを原則的に批判し、両潮流の克服を決定するとともに、ボリシェヴィキとメンシェヴィキのそれぞれの分派機関紙の廃止を勧告した。また、党の本格的な統一を実現するために、早期に全党協議会を招集することを決定するとともに『プラウダ』と中央委員会との密接な関係を確立することを決議した。
こうした諸決議は、基本的な点で、トロツキーら党統一派が一貫して主張してきたものだった。トロツキーは、このパリ総会決議を自分たちの立場の勝利とみなし、熱烈に歓迎した。この決議が採択された直後に出されたウィーン『プラウダ』は、この決議を掲載するとともに、この決議の意義を解明した論文をトップで掲載した。それがこの論文である。
この論文自体は無署名であるが、『プラウダ』の一面トップの論文であり、その内容および文体からして、トロツキーの筆によるものと判断した。
――,На партийную дорогу,Правда, No.10, 12(25) февраля 1910 г.
Translated by Trotsky Institute of Japan
最近の中央委員会総会
［１９１０年１月のパリ総会］は、最重要の事実として、ロシア社会民主労働党の歴史の中に入るだろう。組織的混乱、思想的無秩序、分派的対立のこの数年間を経てはじめて、一致して採択された戦術決議※のうちに、すべての分派と潮流に共通する明確で簡潔な党政策の路線が確立され、党協議会に向けた道へ確固たる一歩が踏み出された。中央委員会をロシア全体の指導団体とすることが決定された。中央機関紙は、――採択された戦術決議の枠内で――党内のさまざまな潮流により大きな自由を与え、したがって現在の分派的機関紙を余計なものとするような形で再編された。各分派の中央部を党の中に実際に融合することへと足が踏み出された。『プラウダ』と中央委員会とのあいだで密接な関係が確立された。最後に、今後半年のうちに、広範な基礎にもとづいた党協議会を招集することが決議された。党の道へ（На партийную дорогу）！――この３語で、採択されたすべての決議の趣旨を表現することができる。※原注 「党から」の欄を参照せよ。
党を破壊してきた内部の分派闘争から自らを解放し、党を結集させる活動の先頭に立とうとするわが中央委員会の試みは、第一級の重要性を持った事実である。「職業的革命家」の後退、プロレタリアートの自主性の増大、党活動の新しい方法の台頭――これらはすべて、この３年のあいだに、党の古くさい建造物を掘りくずした。組織的に閉鎖的な分派、この「国家の中の国家」は、運動の新しい要求にとってあまりにも狭い形態であることが明らかとなって、没落していった。そして、反革命のくびきをものともせず、新しいタイプの党活動家が台頭しはじめた。自覚的で自立した社会民主党労働者がそれである。彼らが「職業的革命家」として登場するのはごくまれな場合だけである。たいてい彼らは、職業的機械工ないし職業的織工にとどまらざるをえない。しかし彼らはすでに、革命的社会主義の雰囲気の外で生きることはできない。反革命の学校の中で、彼らは、中央集権的な政治組織なしにはこれ以上前に進めないこと、わが党の戦術が、現在のロシアにおいて労働者の社会生活が展開されているすべての合法的および非合法的陣地を広範囲に利用することにもとづかなければならないこと、最後に、意見やグループや分派のどんな相違であれ党の行動の統一を破壊することはできないし、破壊してはならないことを理解した、ないし感じとった。中央委員会もまた、今やただちに、この打ち勝ちがたい流れに向かって断固として進まなければならないこと、そして、真の党派性に向けた健全で創造的な吸引力に立脚しつつ、すべての人的力、党のすべての思想的・物質的手段を、広範なプロレタリア的基盤の上に社会民主党を再建することへと向けなければならないことを確信するに至った。中央委員会の功績はまさに、広大な「党の道」へと足を踏み出そうとする共同の努力を通じて、決議に正確で合法則的な形態を与え、それによって、この決議を実践的な組織的指令へと高めたことである。
中央委員会の基本的な戦術決議は、次のことを確認している。すなわち、国際社会民主主義の戦術は、嵐のような政治的爆発の時期だけでなく、緩慢な社会発展の時期においても革命的なものでありつづけることである。それはバリケードにも協同組合のカウンターにも固定されない。それは個々の局面にもとづいているのではなく、社会革命の過程全体を見通したものである。それは、社会革命に向けてプロレタリア大衆を団結させるためにあらゆる経済的・政治的可能性を利用する。国会、非合法サークル、公然の大会、地下印刷所――これらすべては、党の行動の統一に従属しなければならない。それらは、原則的に社会主義的なものである。なぜならば、それは大衆の階級意識の発展に向けられているからである。今やロシア社会民主党がそのいっさいの政治的力を出して結束して目指すことになった課題のためには、古い分派は党の中に溶解しなければならない。その場合のみ党は、一方のグループにおける、非合法組織に対する不信ないし否定的態度
〔解党主義〕と、他方のグループにおける、国会活動に対する不信ないし否定的態度〔召還主義〕を根本的に克服することができるのである。そして、この最も重要な決議――それは最も先鋭な問題に答えるものであり、党の最も新鮮な傷に恐れることなく指を突っ込むものであり、当面する時期におけるあらゆる党活動の方向性をあらかじめ定めるものである――は、中央委員会によって全会一致で採択された。注目すべき事実だ！ このことは、理論闘争と分派的対立の中で獲得された党の複雑な思想的財産から科学的社会主義の純金が抽出されたことを物語っている。われわれの歴史につきまとっていた悪循環とジグザグとから抜け出して、明確な党の路線が現われたのである！しかし、中央委員会の決議でもって課題が果たされたと考えるとしたら、無邪気な自己催眠であろう。これは重要な一歩であるが、最初の一歩にすぎない。党の再建に向けた本格的な仕事はすべてこれからである。党の建物の輪郭ははっきりと描かれているが、分派の森林が取り払われたというにはまだほど遠い。そして、最初の最も差し迫った課題は、各地方における分派的孤立状態を完全に一掃することである。２つの平行した党組織が存在する場合、あるいは、同一組織の形式的枠組みの中で、事実上、相互に反目しあう複数の「地区」やグループ等々がある場合、中央委員会の戦術決議にもとづいた組織統合から始めなければならない。労働組合およびすべての公然団体で活動している社会民主党員を非合法の細胞に結集すること、そしてこの細胞を各地方党組織の共通の網の目に包含すること――これが第２の課題である。これは少なからぬ困難をともなうし、武器の種類の違い（「合法的」と「非合法的」）が分派の違いによってよりいっそう錯そうしているあらゆる場合において、大いなる節度を必要とする。中央委員会の戦術決議は、この場合でも、組織的「結集」のための政治的基礎として大きな役割を果たすにちがいない。地方委員会を強化すること、全党的結びつきを張りつめること、ロシア国内で強力な党中央部を創設すること、権威ある全党協議会を招集すること――以上の課題は中央委員会によって予定されているだけであり、列挙されているだけである。これらの問題を解決するための仕事はまだすべてこれからである。
最後に――そしてこのことを、党建設に自覚的に参加したいと欲するすべての同志たちははっきりと理解し最後まで突き詰めて考えなければならないのだが――、以上指摘したすべての組織統合活動は、今日の政治的・経済的問題をめぐる煽動を拡大深化させることにもとづいて、成功することができるし、豊かな実りをもたらすことができる。あたかもわれわれがまず最初に強固な党を建設し、その次に政治闘争に着手するというような事態の成り行きを、想像することはできない。むしろ反対である。当面するあらゆる問題をめぐる絶え間ない煽動こそが党機構再建の基本的条件である。現在、各地方における組織がいかに弱体であろうとも、それらの多くはすでに、現在の党崩壊のもとでさえ活動を遂行することができることを示している（ビラや地方機関紙の発行、サークルや集会の組織化など）。まさにこうした活動を手を休めることなく遂行しなければならない。なぜなら、その成功の度合いに応じてのみ、他のすべての目的も達成することができるからである。国会の演壇と地下の宣伝とを結びつける広範な社会民主主義的アジテーションだけが、何であれ非合法の党に背を向ける合法主義に対してばかりでなく、国会の演壇に対するエセ革命的軽蔑に対しても全面的な打撃を与えることができる。各地方の活動に依拠し、それを指導し、それに計画的な性格を与え、それを全国家的規模の政治カンパニアに統一することによってのみ、わが党の中央委員会はプロレタリア党の真の指導機関になることができるのである。現在その準備が日程に上っている全党協議会は、各地方で政治的煽動を遂行する場合のみ本格的な意義を獲得することができる。最後に、広範な規模をもった政治活動のみが、不信と猜疑と敵意の雰囲気を党から払拭し、分派体制の最後の残りかすを一掃し、相互尊敬と道徳的連帯――それなしには党は母ではなく継母となる――の条件をつくり出すだろう。
党のすべての分派と潮流の有力な代表者たちは、中央委員会の会議において、党統合の道に向けて大いに善意を発揮した。しかし、党統一の保証は指導者の善意ではなく、社会主義的大衆の統制力にある。この統制力を組織し、党統一を擁護するプロレタリア大衆の世論を動員し、確立された党の路線にそって道を敷設し、それをあらゆるグループ的・サークル的攻撃から守ること、これこそ労働者階級の指導者たる先進的労働者の義務である。
大衆の社会主義的世論の形成に貢献すること、これが、『プラウダ』が最初から自らに課している課題である。労働者新聞は、大衆の面前に示される党の意志の伝達機関である。しかし、党の意志に裂け目が走るならば、労働者新聞も、分派主義の非難から、あるいは正真正銘の分派づくりをやっているという非難からさえ、容易に免れることはできない。それだけになおさら、統合に向けた中央委員会の措置はわれわれにとって重要であり、価値のあるものなのである。『プラウダ』の課題、その方向性は、これまでと同じである。しかし、党内状況は、『プラウダ』の存在と影響にとって今や比較にならないほど有利である。党の相貌を長期間にわたって決定づける党建設の現時点において、『プラウダ』にかかっているささやかな責任の一端を、われわれは恐れることなく進んで引き受ける。われわれはできるかぎりのことを行なう。党の近い将来をわれわれは力強く希望をもって見る。そして、われわれは信じているし知っている、反動によって圧殺された次の叫び声が再び大衆の中でこだまする日も遠くないことを。
ロシア社会民主労働党万歳！
ウィーン『プラウダ』第１０号
１９１０年２月１２日
『トロツキー研究』第36号より
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